とうとう歯医者に行くことになった。
「とうとう」と言うのは歯医者のあのキーンという音が怖いというわけではなくて
アメリカに留学する者にとって、歯医者は避けるべきものとなっていることを意図している。
通常アメリカでは、民間の保険会社の健康保険プランを自分で購入する。
私も大学で斡旋された学生用のプランに加入している。
しかし、健康保険では歯科は適用外なのである。
歯科には歯科保険が別にあるのだが保険料が高いので未加入の人が多い。
調べたところ、私の加入する健康保険は歯科も一部カバーのようなので少し安心。
ちなみに日本のクレジットカードに付帯の海外旅行傷害保険は歯科は適用外である。
以上は保険の問題。
加えてアメリカでは歯科の料金がとても高い。
虫歯を治すだけでも百ドル単位の支払いが必要らしいときく。
反面、お金さえ積めば審美歯科などの分野で日本では受けられないような技術を持った歯科医にかかることも可能だ。
そんなわけで、出発前に多くの人々(滞米経験者)から
「虫歯は全部日本で治療してから行けよ」
とのアドバイスをもらった。
もちろん私は退職直前に歯科でのフルチェックと歯石除去まで受けた。
・・・・のだが・・・
今回の場合、歯の詰め物が外れたんだからしょうがない。アクシデントだ。
とにかく痛みがこないうちに歯科に行くことを決めた。
学校の健康センターで歯科を紹介してもらい、予約をとった。
(電話で予約をとるのも緊張する。)
住所を地図で確認して、自転車で医院に行った。
初診なので、既存症やアレルギーのチェックを含めて沢山の書類を書かされた。
「支払いに関して」の同意書があり、基本的には当日に料金を自分で払うことを確認させられた。
(保険加入者の場合は後で保険会社に請求するのだ。)
おそらく、料金が高いためだろう。
処置室では助手の人とドクターが世間話から入る。
「日本から来たの?」
「どのくらいアメリカに住んでるの?」
「学生さん?」
などなど。
二人ともとてもフレンドリーで、患者をリラックスさせてからきちんと方針について説明するあたりがアメリカらしいと感じた。
詰め物がとれただけで痛みはなかったので、新しい詰め物をしてもらった。
日本では(私の記憶では)保険適用外の白い詰め物だった。
銀色の詰め物より美しく仕上がった。
処置後、受付で料金を払う。
・・・やっぱり高い。
払えない金額ではないし、そのつもりだったからもちろん払ったが
予算の限られた留学生には大きな出費だった。
受付では他の詰め物を新しいものに変えることをしつこくすすめられ
料金プランまで作ってくれたが当然断った。
白い詰め物の方がいいが、将来日本でもっと安くできるだろうから。
帰る道、"dentist"という単語は私が英語を習い始めた初期に覚えた単語だということを思い出した。
12歳の冬休みにロンドンを旅行中、妹が「歯が痛い」と言い出した。
父が駆けずり回って、予約を入れて、何とか歯医者に連れて行ったのだった。
あの当時は英語はドイツ語よりもよくわからない言葉だったから、"dentist"という外国語はことさら強く記憶に残った。
そう考えると「自分で予約を入れて歯医者に行けるようになったんだから、私も随分成長したもんだ」と妙に感心した。