私が茶道の免状を持っていると言うと
「ネタだと思っていた」
とか
「偽造じゃないのか?」
とか言う人がいるけれど放っておいて・・・
茶道の稽古に割り稽古というのがある。
お点前というのはあの「シャカシャカ」というところだけではなくて、
お辞儀をして、道具を並べて、道具を手入れして、お茶を点てて客に出して、
後片付けをして去っていく・・・という全ての流れのことをさす。
この流れはすべてが細かく決まっているので、いっぺんに覚えるのは大変だ。
だから「道具の並べ方だけを練習」とか「シャカシャカのところだけ練習」とか小さな部分を少しずつ練習した後に、
全ての手順をお点前として完成させる。
銀行で住宅ローンを担当することになったとき、この「割り稽古」の考え方が役に立った。
住宅ローンは銀行の仕事として比較的誰にでもおなじみのものだけど、
銀行の仕事の中ではもっとも困難なもののひとつ。
2年目の私が10年ぐらい先輩の人達に何度も頭を下げて色々頼まれたぐらいなのだから・・・。
だから最初の頃は、ベテランのローン担当者に教えられても全然覚えられなくてパニックになりそうだった。
だけど、ベテランさんの下請けを色々とやりながら気づいたのは、
全体の仕事の流れが見通せるようになったことだった。
少しずつ「簡単な手続き」とか「書類の見方」だとか「資金移動の方法」だとかやらせてもらううちに、
ほとんどのパーツが自分でできるようになっていた。
そして1ヶ月経たないうちに、ベテランさんが突然退職された。
代わりの人員が来るまでの間、私一人で窓口に座った。
新規のお客さんがやってきた。
不安だったが、一人で案件をとりまとめた。
すべてを一人でやるのは初めてだったのに、なぜか「やれる」という確信があった。
パーツごとの練習というのは、
オーケストラだろうと演劇だろうと考えてみればとてもポピュラーな手法だ。
だけど、時に今練習している部分が全体の中でどういう役割なのか見失ったり、
単なる単純作業のように扱ってしまったりしがちだ。こと仕事においては。
そういうときに、茶室で何度も袱紗さばきを練習した頃のことを思い出すのだ。